管理業務主任者試験 令和元年試験 問4

問4

留置権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
  1. AB間で建物甲(以下、本問において「甲」という。)につき売買契約が締結されたが、買主Bが代金を支払わずに甲をCに転売し、Cへの登記を済ませた場合においては、Aは、Cからの甲の所有権に基づく引渡請求に対し、甲について留置権を主張することができる。
  2. AB間で甲につき売買契約が締結され、売主Aが買主Bへの登記を済ませたが、代金の支払いがなされていなかった場合において、Bへの引渡し前に甲が火災により焼失したときは、Aは、売買代金を確保するため、Bが取得する火災保険金請求権に対し、留置権に基づく物上代位をすることができる。
  3. Aが、Bに甲を譲渡し、その後、Cにも甲を譲渡した場合において、CがBより先に登記を備えたときは、Bは、Aに対する履行不能に基づく(てん)補賠償請求権を保全するため、甲について留置権を主張することができる。
  4. AB間における甲の賃貸借契約が終了し、賃借人Bが賃貸人Aに対して造作買取請求権を行使した場合においては、Bは、その造作代金債権を保全するため、甲について留置権を主張することができる。

正解 1

解説

  1. [正しい]。留置権は、占有する物に関して生じた債権があるとき、その債権の弁済を受けるまで、その物の引渡しを拒める権利です(民295条1項)。Aは建物に係る代金債権を有していて、建物を占有しています。すでに引渡し債務(所有権移転登記)は履行しており、同時履行の抗弁権は主張できませんが、留置権に基づき建物引渡しを拒むことができます。
    他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
  2. 誤り。留置権には物上代位性は認められていません。これは質権や抵当権と異なり、留置権は物の交換価値から優先弁済を受ける権利ではないためです。したがって、建物が焼失しても、その火災保険金請求権に物上代位することはできません。
  3. 誤り。留置権を主張するには「その物に関して生じた債権」であることが必要です(民295条1項)。Cが登記を備えた時点で、Aの建物引渡し債務は履行不能となり、反対債務であるBの代金債権も消滅します。Bの損害賠償債権は「甲そのもの」ではなく契約不履行に基づくものであり、牽連性を欠くため留置権は成立しません。
    他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
  4. 誤り。造作買取請求権の行使による取得するのは建物の造作物に対する代金債権であり、建物自体に関して生じた債権ではありません。物と債権の間に牽連性がないため、留置権は成立しません(最判昭29.1.14)。
    借家法第五条による造作買取代金債権は、造作に関して生じた債権であつて、建物に関して生じた債権ではない。
したがって正しい記述は[1]です。