管理業務主任者試験 平成30年試験 問2(改題)
問2
AB間で、Aの所有するマンションの1住戸甲(以下、本問において「甲」という。)をBに売却する契約(以下、本問において「本件契約」という。)が締結され、AB間の協議により、BはAに解約手付としての手付金を交付した。また、本件契約において、Aは、契約締結の日から1か月後に代金と引換えに甲を引き渡すことが約定されていた。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。- Bが本件契約の履行に着手していない場合、Aは、Bに対し、手付金の倍額を償還することにより本件契約を解除する旨の通知を送達すれば、本件契約を解除することができる。
- Aが本件契約の履行に着手していない場合、BがAに対し、手付金を放棄し、本件契約を解除する旨の意思表示をしたときは、Aは、Bに対して損害賠償を請求することができない。
- 契約締結の日から1か月後に、Aが甲の引渡しの準備をしていなかった場合でも、Bが代金の支払の準備を整えていたときは、AとBはいずれも、解約手付による解除権を行使することができない。
- BがAの債務不履行により売買契約を解除した場合、Bは、Aに対して手付金の返還を請求することができるが、損害賠償を請求することはできない。
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正解 2
分野
科目:1 - 民法細目:4 - 契約
解説
- 誤り。売主が手付倍返しで解除するには、手付金の倍額を現実に提供する必要があります(民557条1項)。通知のみでは要件を満たさないため解除できません(最判平6.3.22)。
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
民法五五七条一項により売主が手付けの倍額を償還して契約の解除をするためには、単に口頭により手付けの倍額を償還する旨を告げその受領を催告するのみでは足りず、買主に現実の提供をすることを要するものというべきである。
- [正しい]。買主は、売主が契約履行に着手するまでは、手付を放棄して契約を解除することができます。手付解除をした際には、損害が生じていても損害賠償請求をすることができません(民557条)。これは、解約手付が損害賠償の代替的性質を持つためです。
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。 - 誤り。契約の履行に着手するとは、客観的に外部から認識できるような形で履行の一部をなし、または履行の提供をするために不可欠な前提行為をした場合を指します。単なる履行の準備行為だけでは、履行着手と認められないため、A・Bのいずれも手付解除を申し入れることができます(最判昭40.11.24)。
民法五五七条一項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解される(単なる履行の準備行為では足りない)
- 誤り。債務不履行による契約解除では、原状回復義務の一環として手付の返還を請求できます。また、手付解除とは異なり一般の解除権なので、損害賠償請求も可能です(民545条1項・4項)。
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
・・・
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない
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