管理業務主任者試験 令和5年試験 問1

問1

マンションにおける不法行為責任に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、適切なものはいくつあるか。
  1. マンション管理業者は、自らが雇用する管理員が、その業務の執行について第三者に損害を加えたときは、当該管理員個人に不法行為が成立しなくても、使用者責任を負う場合がある。
  2. マンション管理業者は、自らが雇用する管理員が、その業務の執行について第三者に損害を加えた場合、使用者責任に基づいて当該第三者に対してその賠償をしたときでも、当該管理員に対して求償権を行使することは認められない。
  3. マンションの専有部分にある浴室から水漏れが発生し、階下の区分所有者に損害が生じた場合、当該専有部分に居住する区分所有者は、その損害を賠償する責任を負うが、水漏れの原因が施工会社の責任によるときは、当該施工会社に対して求償権を行使することができる。
  4. マンションの共用部分の修繕工事を請け負った施工会社が、その工事について第三者に損害を加えた場合に、注文者である当該マンションの管理組合は、注文又は指図について過失がない限り、損害を賠償する責任を負わない。
  1. 一つ
  2. 二つ
  3. 三つ
  4. 四つ

正解 2

解説

  1. 不適切。使用者責任が成立するためには、①使用関係の存在、②事業の執行に伴うこと、③被用者に不法行為が成立することに加え、④事業者の免責事由が存在しないことが必要です(民715条1項)。被用者が業務遂行上、第三者に損害を与えた場合でも、故意・過失がないなど不法行為とならないときは使用者責任も負いません。
    ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  2. 不適切。事業者が、使用者責任に基づき、被用者の加害責任を負担する形で被害者に損害賠償をした場合、被用者に対して求償することができます(民715条3項)。ただし、全額を求償できるわけではなく、求償の範囲は諸般の事情を考慮し信義則上相当と認められる限度に制限されます(最判昭51.7.8)。
    前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
  3. 適切。工作物の設置・保存の瑕疵によって生じた損害については、占有者に一次的責任があります。ただし、占有者が損害発生の防止に必要な注意をしたときは、その責任は所有者に移ります(民717条1項)。所有者の責任は無過失責任ですが、別に損害原因に責任がある者がいれば、占有者・所有者はその者に対し求償することができます(民717条3項)。したがって、水漏れの原因が施工会社にある場合は、区分所有者は施工会社に求償することができます。
    土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
    前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
  4. 適切。請負人の仕事は注文者の指揮命令から独立で行われますから、注文者が責任を負うことは原則としてありません。請負契約の注文者は、指図や注文に過失があった場合のみ、請負人の仕事について不法行為責任を負います(民716条)。したがって、注文・指図に過失がなければ、管理組合が責任を負うことはありません。
    注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
したがって適切なものは「二つ」です。