管理業務主任者試験 平成28年試験 問1

問1

被保佐人が所有するマンションの一住戸甲(以下、本問において「甲」という。)の売却に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものの組合せはどれか。
  1. 被保佐人が保佐人の同意を得ることなく甲を売却した場合、当該売買契約を取り消すことができる者は、被保佐人に限られている。
  2. 保佐人の請求により、家庭裁判所が被保佐人のために甲の売却について当該保佐人に代理権を付与する旨の審判をするには、被保佐人の同意がなければならない。
  3. 被保佐人が、保佐人の同意を得ることなく甲を売却した場合、相手方が被保佐人に対し、1箇月以上の期間を定めて、保佐人の追認を得るべき旨の催告をしたときは、相手方がその期間内に追認を得た旨の通知を受けなくても、その行為を保佐人が追認したものとみなされる。
  4. 被保佐人が甲を売却する際に、自らが行為能力者であることを信じさせるため、被保佐人であることを黙秘していたことが、他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、又は誤信を強めたものと認められる場合には、被保佐人はその行為を取り消すことができない。
  1. ア・ウ
  2. ア・エ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ

正解 1

解説

  1. 誤り。保佐人も取消し可能です。被保佐人が、民法13条所定の重要な財産上の行為(不動産の売買等)をする際には、保佐人の同意が必要です。被保佐人が、保佐人の同意または家庭裁判所の許可なく「重要な財産上の行為」をした場合、取り消すことができます。この取消しは、制限行為能力者である被保佐人本人(承継人・代理人含む)のほか、同意権を有する保佐人もできます(民120条1項)。
    行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
  2. 正しい。保佐人に代理権を付与する審判は、家庭裁判所によって行われますが、本人以外による請求の場合には被保佐人の同意が必要です(民876条の4第1項・2項)。代理権の付与は本人の利害に重大な影響を与える事項なので、本人(被保佐人)の意思を尊重する制度設計となっています。
    家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
    2 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
  3. 誤り。取消しとみなされます。所有する不動産の売買行為は、保佐人の同意を要する事項とされています。同意なくこれらの行為が行われた場合、取り消しうる状態に置かれるため、相手方は、制限行為能力者本人または保佐人に対し、追認の確答をするよう催告することができます。この際、誰に催告したかによって、確答をしなかったときの法律効果が異なります(民20条2項・4項)。
    制限行為能力者本人に対して催告
    その行為を取り消したものとみなす
    保佐人に対して催告
    その行為を追認したとみなす
    本肢は、被保佐人本人に対する催告のため、通知を発しなかった場合には取り消したとみなされます。
    なお、1カ月以上の「期間を定めた催告→確答をしなかったときに追認」の流れは、制限行為能力者が行為能力者になった後の催告に関するものです。
    2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。
    ・・・
    4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
  4. 正しい。制限行為能力者が、自ら行為能力者であると誤信させるために詐術を用いた場合には、その行為は取り消すことができません(民21条)。黙秘するだけでは「詐術」には当たりませんが、他の言動と組み合わされて相手方を誤信させたときは「詐術」と認定され、取消しは制限されます(最判昭44.2.13)。
    制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
    無能力者であることを黙秘することは、無能力者の他の言動などと相まつて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときには、民法二〇条にいう「詐術」にあたるが、黙秘することのみでは右詐術にあたらない。
したがって誤っているものの組合せは「ア・ウ」です。